引用:「ライオンのおやつ」小川 糸【著】
日常生活をただ過ごしていても、いつかは必ず「死」と待ち合わせることになる。命ある限り、“今”を生きることの大切さや優しい温もりを感じ、涙しました。
あらすじ
海野 雫は若くして余命を告げられ、残りの人生を穏やかに過ごそうと一人で瀬戸内の島にあるホスピス『ライオンの家』にやって来る。ライオンの家では毎週日曜日に「おやつの時間」があり、入居者は食べたいおやつのエピソードを書いてリクエストするのだが、雫はなかなか書けずにいた。
ライオンの家でたくさんの人と出会い、最後の最後まで目一杯自分の人生を生き抜く。人は命がある限り、生きることができる。生きている限り、変わることができる。生きていることに感謝し、今を大切にしたくなる物語。
小説を読んで~学び・気づき・感想
いつか必ずやってくる「死ぬ」ということ。
健康で、明日が来ることが100%だと思って日々過ごしていると「死」を覚悟し受け入れることは簡単ではないと思う。
そもそも死んだら人はどうなるのか。死後の世界はどんなところなのか。
未知の世界を想像することは、時にわくわく、好奇心をくすぐられるものもあるけれど、「死」についてはできるだけ考えたくはない。なぜなら、悲しくて怖いものを連想してしまうからだ。
しかし、読み終わった今はちょっと違う。
死は悲しいだけではなく、「美しい来世の始まり」と考えた方がいいかもしれない。自分の人生を後悔ないよう目一杯生ききることができたなら、死は「新しい世界への旅立ち、卒業」のようなものだと思った。(不謹慎な言い方かもしれないけれど。)
死を受け入れることは、もっと生きたいと素直に認めること。
生きているこの瞬間を大切に過ごし、体があるからこそ経験できることをもっと貪欲に感じて、最後まで悔いのないように、生ききることを諦めてはいけないと思った。
人それぞれ人生があって、「あの時ああしていれば、こうしていれば」と過去を後悔したり、怒りや悲しみ、絶望などマイナスな気持ちになることもあると思う。
だけど、そんな気持ちを解消しないまま、ただ死に向かっていくだけの毎日を生きるより、最後の最後まで前向きに生きることに貪欲でありたい。
好きなものを食べたり、やりたいことをやったり、行きたいとこに行ったり、会いたい人に会ってたくさん話したり、笑ったり、感謝の気持ちを伝えたり、
五感を使って何かを体験できる「今」をもっと大切に過ごしていきたい、大切に過ごさなけばいけないと感じた。
ライオンの家で人生の最後を過ごす人たちがリクエストするおやつには、十人十色、人生の大切な記憶と、それに込められた思いが詰まっていた。
他人からすればただのおやつでも、当人にとっては人生を思い出す味。
その味は、幸せな思い出ばかりではなく、ひょっとしたら嫌な味のものもあるかもしれない。
でも、すべてひっくるめて過去の出来事に感謝し、まだ生きている「今」からできることを大切にして過ごせば、きっと悔いのない、すっきりと清々しい人生の最後を迎えられる。
そんな気がした。
人生の最後に食べたい思い出のおやつが何になるのか、私自身はまだ分からない。
大切なことは、過去どんな人生を歩んできたかどうかではなく、生きている限りできること、やりたいことを目一杯、「今」を大切にすることなのだと思った。
関連紹介
壮絶な人生でありながら、まっすぐに生きて新しい自分の人生を切り開いていく、盲目少女の人生物語。同じく小川糸さんの著作で「とわの庭」もまた、「生きる」「人生」のすばらしさを感じさせてくれる小説です。