レモンと殺人鬼┃くわがきあゆ【著】あらすじ・感想—結末はスカっと⁉屈折しすぎた人間の恐ろしさ

小説

2023年、第21回 『このミステリーがすごい!』大賞・文庫グランプリ受賞作。
スピード感あるどんでん返しの連続に、頭と心の理解が追い付かずついていくのに必死になりながら、どんどん引き込まれていきました。


レモンと殺人鬼 (宝島社文庫)

 

あらすじ

10年前、美桜と妃奈の父が通り魔によって殺害された。以降母は姿を消し、姉妹は別々の親戚に引き取られ、互いに肩身の狭い思いをしながら暮らしていた。

高校卒業後はそれぞれ自立し、たまに姉妹で会って近況報告などしていたが、ある日妹の妃奈が遺体で発見される。
妃奈は事件の被害者として当初報道されていたが、実は保険金殺人の犯人ではないかと疑いをかけられ世間の風向きが変わっていった。

姉の美桜は、妹の潔白を証明しようとひとり行動を開始する。

小説を読んで~気づき・学び・感想~

物語が後半へと進むにつれて、真実が明かされるまで二転三転、したと思ったらそこからまたさらに新事実が次々と出てきて読者を翻弄してゆく感じ、そして想像もしなかった衝撃のラスト。

一気に引き込まれました。

後半は読んでいくにつれて恐怖感をじわじわ感じさせ、気持ち悪さや気味の悪さを感じながらもある意味では共感や同情すら覚える。

不思議なくらいに心が持っていかれ、読了後しばらく放心状態でした。

🍋🗡️

この物語の人物たちは、みなそれぞれ歪んでいました。

自己愛、他者愛、承認欲求、自己顕示欲など

さまざまな心情がとても屈折していて、とてもじゃないけれど自分事として考えられはしない、理解できないと思って読んでいました。

でも読了後少し経って、「本当にそうなのか?」「これは単なるミステリー、サスペンス小説の中だけの出来事なのか?」と立ち止まって考え始めたんです。

そもそも、“屈折している”という状態は、人間であれば誰でもそうなる可能性は秘めているのではないでしょうか。

本来、人間の心理として誰かと同じでいることで安心したり、違っていることで優越感に浸ったり、自分を認めてほしい、褒めて欲しい、こっちを向いて欲しい、羨ましい等、そういった他者意識は誰もが持っていると思います。

その欲求が自分の思うように得られなければ、嫉妬や歯痒さ、もどかしさ、嫌悪等の感情も生まれるけれど、それをどうにか消化しながら人生前に進んでいくんじゃないかと思います。

でも、その感情がうまく消化できなかった場合に、歪んだ思考回路になってしまうのかなと。それも、当の本人は“屈折している”自覚がないから恐ろしいです。

そう考えたら、案外他人事ではないような気がします。

🍋🗡️

嫉妬や悔しさを素直に認められず、相手に冷たく当たってしまったり、ちょっとした嫌がらせをしてやろうかと企んだり。

「自分と同じ」と思い仲良くしてきた友人や同僚が、結婚したり出世すると、自分とは遠い存在になってしまったような気がして勝手に劣等感を感じる。
そして相手の幸せを素直に喜べず、つい心にもない言葉を口にして傷つけてしまったり。

SNSで匿名の誹謗中傷コメントをする人も、何もせずにいられないのは自分の弱さやコンプレックスを隠して必死に上に立とうともがいているのだと思います。

🍋🗡️

このような行動は、自己肯定感の低さゆえに起こす「精神的殺人」と言えるのではないかと思ったのです。自己肯定感が低く、逆に他者意識ばかり異常に強いと歪んだやり方でしか自分の存在をアピールできず、人の心を傷つけていく。

そして傷つけることに何の痛みも感じなくなったり、そういうやり方で自分顕示欲を満たすことに喜びや爽快感を感じるようになってしまったら…

とても恐ろしく想像したくはありませんが、そんなことを考えさせられました。

🍋🗡️

衝撃的なラストでもその歪み具合は最高潮に怖かった。でも、それも“普通の人間”から生まれたものだと考えたら、理解できないけれど同情の余地はゼロではないかもしれない。そんなことを恐怖しながら考えさせられました。

おわり

衝撃的で予想外のラストは、恐怖でありながら爽快感マックス!ミステリーやサスペンスが好きな人、是非小説を読んでその世界に引き込まれていってほしいと思います。

タイトルとURLをコピーしました