流浪の月┃凪良 ゆう【著】あらすじ・感想—ふたりだけの新しい人間関係

小説

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“中途半端な理解と優しさで、わたしをがんじがらめにする、あなたたちから自由になりたいのだ。”
引用:「流浪の月」凪良 ゆう【著】

2020年本屋大賞受賞作の、凪良ゆうさんの小説。凪良ゆうさんの小説を読むのは『わたしの美しい庭』から2冊目でした。

世間から向けられる「普通」という価値観の押し付けに生きづらさを感じながら、それでも自分が大切だと思うことは誰に何を言われようと譲れない。

本作も、そんな人間関係のつながりを感じさせてもらえました。


流浪の月 (創元文芸文庫)

あらすじ

「誘拐事件の被害児女で“かわいそう”な更紗と、逮捕された“児童誘拐犯”の文」

世間が知っている「事実」は正しくても、実際に更紗と文の中で起こっていた「真実」は違う。だれにも本当のことを理解してもらえないが、お互いにとって特別な存在であった。

そんな二人の関係は、家族でもなく、恋人でもなく、友達でもなければ知り合いでもない。だけど、心から大切な人。

名前をつけられない更紗と文の新しい人間関係を、世の中の矛盾や生きづらさと共に描く。

小説を読んで~学び・気づき・感想

「自分がされて嫌なことは人にもしない。自分がされて嬉しいことは、人にもしてあげる」

子どもの頃にそう教わった人は多いかもしれないけれど、一方で「自分の物差しで人の気持ちを判断してはいけない」とも言います。

その匙加減ってすごく難しいと思うし、そもそも人の気持ちを考えるってすごく繊細な作業だと思う。コミュニケーションですれ違いや勘違いを生み、傷ついたり苦しくなった経験は誰にでもあると思います。

でも、それは仕方ない。人それぞれ違う考え方や価値観があることは当然で、何が正しくて何が間違っているのか、その判断基準も人によって違うから。

だから、周りの意見や視線に傷ついて自分にとって大切なものを忘れてしまわないように、次の言葉を忘れないでおこうと思います。

 

事実は一つでも、真実は一つとは限らない

 

起こった出来事に対して、あれこれと妄想することが好きな人はたくさんいます。根拠ないことや事実ではないことを自由勝手に想像して、勝手に人の気持ちに土足で踏み込んでくる人にも、人生でたくさん出会うかもしれません。
たとえ、悪気なく優しさのつもりだったとしても。

でも、他人が勝手に想像して作り上げたそれは、事実でもなければ真実でもないのです。

他人は知らない、自分だけが知っている真実を信じて大切にすることができれば、きっと生きづらいと感じる世の中でも強くいられる気がします。

 

更紗と文の二人の関係は、きっと世間の大多数からみたら「おかしい」と言われてしまうのかもしれません。

その考え方が正しいとか間違っているとか、良いことだとか悪いことだとか、それを考えて仮に答えを出したところで、誰も救われないのだと思います。

更紗にとっては文が、文にとっては更紗が、互いの人生にとって心から大切であったという真実を、他人が否定することはできませんから。

その感情は、友情でも愛情でもない。
その関係は、友人でも、家族でも、恋人でもない。
では、この気持ちは、関係は何と呼べばいいのか。

答えは、ない。

だけど、確かにかけがえのない存在であることを、他人に何と思われようと大切に思い合えること、関係に名前をつけようとしなくても、互いに大切な存在と認めていること

そんな、究極にプラトニックな更紗と文の関係がとても美しいと思いました。

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