舟を編む┃三浦 しをん【著】あらすじ・感想—言葉と向き合う辞書編集者のプロ意識と“まじめ”な恋

小説

“言葉の持つ力。傷つけるためではなく、だれかを守り、だれかに伝え、だれかとつながりあうための力に自覚的になってから、自分の心を探り、周囲のひとの気持ちや考えを注意深く汲み取ろうとするようになった。”

引用:「舟を編む」三浦 しをん【著】


舟を編む (光文社文庫)

 

あらすじ

馬締光也は玄武書房の営業部社員。コミュニケーションが苦手で営業成績も出せず、周囲からは変わり者扱いされていた。ある日、辞書編集部の荒木と社内で出会い、馬締は言葉のセンスを買われて辞書編集部に異動することになった。
辞書『大渡海』完成に向けて、仲間と共に“言葉”と向き合い続けるお仕事小説。
そして馬締の恋の物語。

小説から得た気づき・学び・感想

私事ですが、読書は好きな方で小説やエッセイ、ビジネス書、自己啓発書を読むことが多いです。

読書をすることでたくさんの素敵な言葉に出会えたり、今までの自分の価値観にはなかった考えを知ることができたり、新しい学びが増えたり。
本は、好奇心を刺激してくれるし、感情を豊かにしてくれます。そういうところが好きです。

でも、本が好きだからと言って、「辞書」はどうかと言われたら・・・苦笑い。

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この小説を読んで感じたことは、辞書編纂という仕事の繊細さと優しさ

辞書は堅くて難しい、あまり仲良くなれない存在かなと思っていたけれど、
本当の中身はとても繊細で優しい気持ちが込められている、奥深い作品なんだと見方が変わりました。

通常、辞書は本というより言葉を調べるための道具として扱うことが多いように思います。

小説や自己啓発本のように、心動かされたり考えさせられたことは多分一度もないし、書いてある言葉の意味を「へぇ、そうなんだ」と理解するだけ。
言葉の意味を知って、その後苦しんだり悩んだりすることもありませんでした。

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辞書に書いてあることを「へぇ、そうなんだ」とそのまま理解する。
いたって普通のことだと思ってきたけれど、実は当たり前のようでそうではないことに気づかされました。

私たちが言葉を理解し自然と受容できるのは、それを受け取るさまざまな人たちの気持ちを想像し、膨大な言葉の海から一つ一つ紡いでくれる馬締のような辞書編集者さんたちのおかげなんだということに。

言葉は良くも悪くも、人に影響を与えます。
同じ言葉でも表現が違えば受け取り方も異なるし、人それぞれ感性があるからこそ辞書づくりにおいては編纂者の主観や想いを表現してはいけません。

言葉の意味を初めて調べる人が、その辞書で初めてその言葉に出会った人が、読んでどう感じるか、人の心を敏感に想像しながら言葉を辞書に載せていく。

世の中にあふれている膨大な言葉の数々を目の前にして、「誰のための辞書なのか?」と辞書を使う人を思い浮かべ、そのターゲットの気持ちを想像しながら、どの言葉をどのように登場させるのか考える。

とっっっても繊細な作業だなと思いました。

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「いいな」「素敵だな」と感じた言葉に出会ったら、その言葉を日常生活でもたくさん使いたくなります。その「素敵な言葉」で他人とコミュニケーションを取って、人間関係を築いていったり、繋がりが生まれたら最高です。

そんな「言葉」を流通させる元祖が、きっと辞書なんだと思います。
「言葉で他人と繋がりたい」という思いを持って、1つ1つの言葉と真剣に向き合い、他人の気持ちを想像しながら、1冊の辞書作りにたくさんの人が関わっている。。。

素晴らしいプロフェッショナルを感じさせられたお仕事小説でした。

ちなみに、一風変わった馬締の恋模様については是非小説を読んでみてください。

 

【関連】言葉の力を感じる小説

言葉の力を感じさせられる小説では、「本日は、お日柄もよく」原田 マハ(著) も有名です。幼馴染の結婚式に出席したところ、ある人物のスピーチに感激し、仕事をやめて言葉のプロを目指して新しい人生を歩いていくOLの物語。

言葉で人を突き動かす。言葉の影響力を感じさせられる物語です。
興味がある方は、こちらも是非読んでみてください。

 

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