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引用:「ロスト・ケア」葉真中 顕【著】
少子高齢化が進む日本で、家族介護の実態や問題点をリアルに訴えていると感じました。この物語は、たかが小説や他人事等と割り切らず、自分事として考えるべきことなんだと思います。
あらすじ
介護を必要としながら生活している老人42人が「彼」によって殺害された。「彼」は、殺害することで老人たちを、そしてその家族を“救った”のだと主張する。
大友はそんな「彼」の主張に真っ向から反論し、生きていてこそ人間の尊厳は守られるべきだと正義を主張する。
人間の尊厳とは何か?これは偽善なのか?正義とは何か?善悪とは何か。
高齢化社会が進む中で、介護が引き起こす社会問題に触れながら問うミステリー小説。
小説を読んで~学び・気づき・感想
時々ニュースで見る、介護に疲れて子が親を殺害するという事件。殺害して人の命を奪う行為は有罪と法律で決められているから、してはならない行為。
そんなことは説明するまでもないことだけれど、高齢化社会が今後進んでいき、老人ホームに入れず家族介護に直面する人たちが増えていく社会の中では、自分事として考えなければいけない問題であるとこの小説を読んで感じた。
私自身はまだ親の介護に直面していない。仮に数年後に直面したとしても、きっと自分は親を殺害したりしないだろうと思う。自分の大切な家族を、自分の手で殺害しようなんて微塵にも思わないだろうし、そんな恐ろしいことが出来るはずないと思う。
介護は楽ではないし苦しいこともあるだろうと予想はできるかもしれないが、かといって殺害に及ぶまではいかないだろうと、呑気に思っている。
認知症になっても、親が大切な家族であることに変わりはないし、少しでも元気に穏やかに暮らしていけたら。親に子育てをしてもらった恩を、今度は自分が介護することで親孝行できたら。
そんなことを、“安全地帯にいる人たち”は述べるのだと思う。
だけど、“穴に落ちた人たち”からすれば、上記で述べたようなことは偽善なのだ。
意思疎通ができていた親が、自分のことを忘れてしまい、
穏やかだった親が、暴言や罵声を自分に浴びせてくるようになり、
どんなに尽くしても通じないし、報われない。
初めは精一杯支えると誓ったはずなのに、だんだんと精神的に堪えてきて、親の介護が中心の生活では身も心も自由を奪われる。それでも、生きている限り介護という地獄の日々は続く。
それを想像したとき、自分がその立場になった時のことを想像すると、とても恐ろしく、悲しく感じた。
どんな状態だろうと、「人間の尊厳」は守られるべきものであり、尊厳を守ることは、生きている限りただ命を継続させることなのか?
どんなに苦しくて逃げだしたくても、「人間の尊厳を守るべき」という価値観に縛られている。
そしてついに、他に頼る人がいなくて終わりの見えないこの介護中心の生活を、
“人が死なないなんて、こんなに絶望的なことはない!”
そう“穴に落ちた人たち”は思うのだと思う。
❁
「人間の尊厳」や「善悪」について、42人を殺害した「彼」が、介護という社会問題を訴える。彼の主張は重く考えさせられるものだけれど、だからといって現実的に共感し賛同するわけにはいかない。
でも、彼が世の中に向けて心底訴え、望んでいた「人が人の死を、まして家族の死を願うことのないような世の中」「命を諦めなくてもいい世界」
これを実現させるためには、介護業界のイメージを変える必要はあると思う。
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人の入れ替わりが激しく、常に人手不足な介護施設。
現場の管理者になってもヘルパー業務と事務業務に追われる。
賃金は他業界に比べて低く、その割に重労働で体を壊し退職する人も。
そんなイメージのある介護業界の採用活動ではよく、
「無資格、未経験でも働けます!」とか、
「入社後に資格取得をサポートします!」とか
「家庭と両立させて長く働けます!」とか、
仕事や会社の魅力をアピールして人を集めようと努力する。
家族の介護や育児に直面している社員に対しては、介護休業や育児休業、短時間勤務等の制度を手厚く整えて、「福利厚生がしっかりしているから長く働けて安心」という点を強みにしている。
でも、「彼」のように家族の介護に直面し苦しい生活をしている人達にとって、それは会社側の偽善の押し付けになるかもしれないと思った。
会社側が勝手に、「働きやすい」「安心」と決めつけ、勝手に「福利厚生が手厚い」と表に出すことで価値観を作り上げてしまっている。
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高齢化社会で介護を必要とする人が増え、有料老人ホーム等の介護施設も入居待ちが相次ぐ中で、家族介護に直面する家庭にとって何が「救い」になるのだろうか。
命を捨てて無理やり介護を終わらせるという悲しい方法ではなく、介護をする側も受ける側も、人間として個人を尊重されていると実感できるような生活を送れるようになればいいと思った。