“ほんとうに弱っている人には、誰かがただそばにいて抱きしめるだけで、幾千の言葉の代わりになる。そして、ほんとうに歩き出そうとしている人には、誰かにかけてもらった言葉が何よりの励みになる”
引用:「本日は、お日柄もよく」原田 マハ【著】
ある人物の言葉に影響されて、人生を大きく変えたOLのお仕事小説。
「言葉で人とつながる」とはどういうことか。そのためには何が大切なのかを教えてもらえた小説です。
小説を読んで~学び・気づき・感想
人を惹きつける話ができる人にはどんな特徴があるでしょうか。
話している内容は同じなのに、心が動かされる人とそうでない人の違いを感じるのは何故でしょうか。
普段私が働いている職場では、オフィスにいる社員全員が集まって朝礼をやります。
一人ずつ順番に朝礼当番がまわってきて、会社の方針書を全体の前で朗読するのですが、最後に「今日のひとこと」というスピーチをするのが恒例です。
スピーチの内容はどんなものでも良いとされていて、趣味の話や家族の話、最近気になるニュースの話、休日の出来事など、仕事中はあまり知ることがないその人の一面をスピーチから知ることができるので、毎日のちょっとした楽しみになっています。
「この人の話、分かりやすいな」「もっと聞いてみたい!」
と、話を聞きながら楽しくなったり、感動したり、印象に残る人もいれば、
一方、「この話はいつまで続くんだろう」「結局何が言いたいんだろう」
と、話が全然入ってこない人もいます。
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さて、この物語は主人公・二ノ宮こと葉が幼馴染の結婚式に出席しているシーンから始まります。
長々とした来賓のあいさつに、こと葉は眠気に耐え切れず恥ずかしい失態をおかしてしまうのですが、その直後に思わず感動で涙があふれるほど衝撃的なスピーチを聞きます。
これが、伝説のスピーチライター・久遠久美との出会いでした。
こと葉は早速、久遠久美に弟子入りし「言葉のプロ・スピーチライター」を目指して新たな人生を歩き出します。
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私がこの物語を通じて学んだことは、「どんな言葉や話し方を知って披露できるかどうかより、本気の思いをさらけ出す勇気の方が大事」ということ。
一見、自分の体験や考えを話しているようでも、ちょっと一線引いた感じだったり「上手く話そう」とテクニックを意識しているようだと、どこか胡散臭く聞こえます。
言葉では良いこと言っているけれど、本当に本心で言っているのか分からなかったり、
“良いことを言っている自分”をパフォーマンスすることに酔っているように見えてしまったり。
それだと言葉をただ“言っている”だけで、他人の心を動かすパワーは発揮しません。
先日、暮らしを変える書く力(著:一田憲子)の感想でも同様ことを書いたのですが、言葉で自分の思いを届けたい、人とつながりたいと思ったら、
「自分がどんな経験をしてきて、そこから何を感じているのか、どうしてそう思うのか」等、自分自身と向き合い、“わかったつもり”の思いをはっきりさせる作業が必要なのだと改めて感じました。
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自分の気持ちを中途半端に分かっているつもりで、言葉面に頼って話をしても、思いは人に届きません。
「言葉には力がある」と言うけれど、すべての人が、心を動かす力ある言葉を話すことができるとは限りません。
聴衆の前で話すかしこまったスピーチでなくても、日常の言葉だって同じこと。
人を褒めたり、喜びや楽しいという気持ちを伝えたり、
時には怒ったり、叱ったり、
励ましたり、慰めたり、
どんな言葉を話す時にもさまざまな感情を伴うけれど、本気で思いを伝えようと自分をさらけ出し、熱意ある言葉は人を動かすことができるんです。
だから、言葉が人に影響を与えるのであれば、やはりプラスを与える人でありたい。
おこがましいけれど、他の人ではなく私だからこそ語れる言葉で、もっと人と繋がってみたいんです。
私は決して特別な人間ではありません。いたって普通の30代会社員で、毎日平凡に暮らしているだけ。
だけど、「平凡に暮らしているだけ」の中でもちょっと気づくことがあったり、学ぶことや感じることがあったりするわけです。
そして、その時のその感性はきっと、他人からすると特別なものなのかもしれないのです。
価値観が似ている人や同じような経験をしてきた人は世の中にたくさんいると思います。だけど、みんなちょっとずつ違うはず。
「自分はたいした人間ではないから」と、遠慮して自分をさらけ出さずにありきたりの言葉を並べていては、心から他人と気持ちを通わせることはできません。
伝えて本心を知られるのが怖いとか、話すのが苦手という人もいると思います。
自分で考えずにテンプレ文で済ませたり、人の言葉を使って語ることは楽だけど、そこから広がる人間関係はあるのでしょうか。
「言葉」は、上手く話せるかどうかのテクニックではなく、自分に正直でいること、他人に対して自分の本音の思いをさらけ出そうと誠実でいようとすることの、人間性を表すものなのだと思いました。